事業承継総合センターとは

 事業承継総合センターとは、リクルート次世代事業開発室が提供する新しい事業承継に関する総合相談サービスになります。

 事業承継とは、自己が経営する会社の経営権を、会社資産とともに、次の経営者に引き継ぐことをいいます。事業承継には、主に①親族内承継、②役員・従業員承継、③社外への引継ぎ(M&A)の選択肢があります。今回ご紹介する事業承継総合センターは、M&Aを中心として、事業承継について幅広く相談にのってもらえる総合相談サービスになります。

 しかし、M&Aによる事業承継は、M&A仲介会社を利用することも考えられます。 M&A仲介会社とは、その名のとおり、売手企業と買手企業のM&Aを仲介する会社のことをいいます。いままでは、事業承継の一手段としてM&Aを検討する場合、M&A仲介会社へ依頼することが多かったのではないでしょうか。

 それでは、事業承継を考える場合、事業承継総合支援センターとM&A仲介会社のどちらに相談するべきなのでしょうか。

事業承継総合センターに相談するメリット

 事業承継総合センターとM&A仲介会社を比較した場合、事業承継総合センターには、以下の4つのメリットがあります。

ポイント

  • 事業承継の総合相談窓口であること
  • 着手金がないため気軽に相談し易い
  • M&A仲介会社が保有する買手企業を横断的に比較可能
  • 利益相反の構造的問題がないこと

 結論としては、事業承継総合センターは、初期段階の相談先として利用するのが良いと感じました。

 それでは、上記の4つのメリットについて順番に詳しく解説していきます。

メリット1:事業承継の総合相談窓口であること

 まずはじめに、事業承継総合センターは、事業承継について総合的に相談にのってもらえるサービスです。

 事業承継の方法としては、前述したとおり、①親族内承継、②役員・従業員承継、③社外への引継ぎ(M&A)という方法があります。事業承継の各方法についてどのような違いがあり、どのような準備が必要かなどがわからず、実際にどの方法で事業承継を行うか迷われている方は多いのではないでしょうか。

 事業承継の各手法のメリットとデメリットについて比較すると、以下の図のようになります。

 このように事業承継の各手法には、それぞれメリット・デメリットがあるため、事業承継を検討する際は、当該メリット・デメリットを適切に把握したうえで、総合的に検討する必要があります。M&A仲介会社の場合は、基本的に社外への引継ぎ(M&A)に関する相談がメインとなりますが、事業承継総合センターの場合は、親族内承継や役員・従業員承継等を含めて総合的に相談にのってもらえます。

 このことから、事業承継総合センターに相談するメリットは、事業承継の方法について総合的に相談にのってもらえるというところにあると思います。

【関連情報】
中小企業庁「事業承継ガイドライン」

メリット2:着手金がないため気軽に相談し易い

 事業承継総合センターは、着手金が無料なため、気軽に相談し易いというメリットもございます。

 M&A仲介会社に仲介を依頼した場合の報酬体系をご存知でしょうか。一般的には、以下の3タイプの報酬体系がございます。なお、これらの報酬体系は、いずれか一つのタイプのみを採用している場合もあれば、いくつかのタイプを組み合わせている場合もございます。

着手金主に契約締結時に支払う手数料
月額報酬主に一定額を毎月支払う手数料
成果報酬主に一定の成果発生時点で支払う手数料

 このように M&A仲介会社に仲介を依頼する場合、着手金や月額報酬が発生する場合があるので、依頼後にもし買手企業を紹介してもらえない場合、着手金や月額報酬が無駄になってしまうリスクがございます。M&A仲介会社は、他のM&A仲介会社と買手企業の情報を共有していないため、紹介できる買手企業は、基本的には自社が保有する買手企業に限られます。自社が保有する買手企業のみでは、売手企業の要望に応えるのに限界があるため、M&A仲介を依頼後に買手企業を紹介してもらえないということは普通に起こり得ることなのです。

 これに対して、事業承継総合センターは、着手金無料で基本的には成果報酬の報酬体系となっていることから、気軽に相談し易いというメリットがあります。事業承継の準備をはじめられたばかりの方は、着手金無料のサービスを選ぶことが重要でしょう。

メリット3:M&A仲介会社が保有する買手企業を横断的に比較可能

 事業承継総合センターは、M&A仲介会社に依頼する場合と比べて、より多くの買手企業を紹介してもらえるというメリットがございます。

 というのも、M&A仲介会社は、売手企業との間で締結する仲介契約において、一般的に専任条項を設けており、売手企業は、他のM&A仲介会社から買手企業を紹介してもらうことができません。専任条項とは、売手企業が、仲介契約の有効期間中に、他のM&A仲介会社に重ねて仲介を依頼することを禁止する条項です。このような専任条項があるため、売手企業は、仲介契約の有効期間中、当該M&A仲介会社の買手企業の情報に頼らざるを得なくなります。また、前述したとおり、M&A仲介会社同士では、一般的に買手企業の情報が共有されていないため、売手企業は、一つのM&A仲介会社と専任契約を締結した場合、他のM&A仲介会社が保有する買手企業リストにアクセスすることができなくなるのです。

 これに対して、事業承継総合センターは、売手企業とM&A仲介会社の間にはいり、かつ複数のM&A仲介会社と提携しているため、売手企業は、複数のM&A仲介会社が保有する買手企業を横断的に比較検討することができます。事業承継総合センターは、2021年11月時点において、約30社とのM&A仲介会社と提携しており、合計約10,000社以上の買手企業の情報を保有しております。当然ですが、売手企業としては、M&Aのマッチングを早期に成立させるためには、少しでも多くの買手企業の情報を取得する必要がありますので、複数のM&A仲介会社の買手企業リストにアクセスできるようにしておくことは非常に重要です。

 以上のことから、事業承継総合センターは、複数のM&A仲介会社が保有する買手企業を横断的に比較検討することができるというところにメリットがあるといえるでしょう。

メリット4:利益相反の構造的問題がないこと

 M&A仲介会社に依頼する場合、利益相反の構造的問題があるといわれておりますが、事業承継総合センターに依頼する場合はそのような心配はございません。

 利益相反の構造的問題とは何でしょうか。M&A仲介会社は、売手企業とのみ仲介契約を締結しているわけではなく、買手企業とも仲介契約を締結しているのが一般的です。売手企業としては、当然できる限り高い値段で売却したいと考えるでしょうし、買手企業としては、できる限り安い値段で買収したいと考えるでしょう。M&A仲介会社は、この売手企業と買手企業の相反する要望に応えていく必要があるため、一方当事者の要望のみを考慮することはできません。このことから、売手企業が、M&A仲介会社に対して、自己の利益を最大化するように交渉をお願いすることは構造的に難しいといえます。これが利益相反の構造的問題です。

 これに対して、事業承継総合センターは、売主企業の相談に応じるサービスであり、一部例外を除き、基本的に買手企業の相談にはのっておりません。ですので、事業承継総合センターは、売手企業の要望のみを考慮すればよいことから、利益相反の構造的問題は生じにくいといえます。

 以上のことから、事業承継総合センターは、M&A仲介会社と比べて、売手企業の利益を最大化するためにはどうすれば良いかという点について相談にのってもらいやすいのです。

まとめ

 以上をまとめますと、事業承継総合センターとM&A仲介会社を比較した場合、事業承継総合センターに依頼するメリットは以下の4つになります。

ポイント

  • 事業承継の総合相談窓口であること
  • 着手金がないため気軽に相談し易い
  • M&A仲介会社が保有する買手企業を横断的に比較可能
  • 利益相反の構造的問題がないこと

 以上のメリットからすると、初期段階の相談先として事業承継総合センターを利用するのが良いと感じました。特に、事業承継についてまだ何も準備されていない方や、どのM&A仲介会社に依頼されるか迷われている方等は、今後どのM&A仲介会社に依頼するべきかを検討する前段階として、本サービスを利用してみるのも良いと思います。事業承継総合センターにて、複数のM&A仲介会社に相談し、サービスの違いや、担当者との相性を確認し、その後に信頼できる一つのM&A仲介会社に依頼するというのもありでしょう。

 事業承継総合センターについてもっと詳しく知りたい方は、以下のWEBサイトもあわせてご覧ください。特に、最下部にある「よくあるご質問」は、相談前に目を通しておくことをお勧めします。

著者プロフィール

SHIMON

所属:上場企業法務部
資格:行政書士、ビジネス実務法務検定1級等

【経歴】
 大学院を卒業後、ITベンチャー企業に入社。契約書の作成・審査や法令調査等を経験。その後、上場企業の法務部門に転職し、前職の業務に加え、知的財産の取得や、M&A等も経験し、現在に至る。

【執筆記事】
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